水回りリフォームの中でも、比較的簡単で工期も短いトイレのリフォーム。しかしそれはあくまでも、元のトイレの場所で入れ替え工事を行う場合の話です。もしトイレの移動を伴うリフォームになれば、施工もむずかしくなり、当然費用もアップします。
したがって本当に移動が必要かどうかを事前にしっかりと計画しておかないと、費用が負担となり、あとから後悔することにもなりかねません。
そこで今回は、移動が必要かどうかの判断基準やトイレ移動工事の特徴・費用など、「トイレ移動リフォーム」に必要なポイントをわかりやすくご紹介していきます。
そもそもトイレって移動できるの?
トイレの移動について解説をはじめるまえに、そもそもトイレの場所移動が本当に可能かどうかをはっきりさせておきましょう。
結論からいえば、トイレの移動自体は十分可能です。ただし冒頭でお話したとおり、既存トイレ内での工事よりも複雑な作業が増えて、リフォーム費用も大きくアップします。もしかすると、「単純にトイレを移動させるだけなのに、どうしてそんなに費用がかかるのか?」と思われるかもしれませんね。
しかしトイレの移動となると、ただ「便器を交換する・床や壁を張り替える」といった通常の工事だけでは済まなくなってきます。
どうしてトイレの移動リフォーム工事がむずかしいのかというと、最大の理由は給排水管の大幅な移動が発生するからです。また移動先の場所によっては、最悪外部の配管からやりなおす必要が出てきます。
したがって、多額の費用をかけてまで本当にトイレを移動する必要があるかどうかを、事前にしっかりと見極める必要があるでしょう。
具体的な工事内容と費用については、またのちほど詳しく解説します。
トイレ移動の必要性を判断する基準とは
移動を伴うトイレリフォームは工事費用が大幅にアップするといいましたが、費用よりも移動メリットのほうが大きいと感じるなら、思い切って移動リフォームに踏み切るのもひとつの考え方です。
ではどういった場合に、トイレを移動させるリフォームが有効なのでしょうか。
もちろん各家庭の状況によって異なりますが、大きく以下の3点が考えられます。
- 介護者など、トイレへの移動が負担になる家族がいる場合
- 音や臭いの問題が発生している場合
- 来客などが多く、使い勝手を改善したい場合
なかでもトイレの移動を考える理由としてもっとも多いのが、トイレまでの移動が負担になるケースでしょう。
国立長寿医療研究センターがおこなった※夜間頻尿回数の調査によると、夜中1〜2回以上トイレに起きる人は、60歳代で約70%にも上るそうです。
自分で歩ける人はまだよいとしても、自立歩行が困難な介護者の場合、トイレの距離が遠くて排泄の自立が妨げられるのは避けたいところだと思います。その場合は部屋のそばにトイレを移動させる、いわゆる「介護リフォーム」もたしかに有効なアイディアです。
また逆に、トイレが部屋に隣接していて音や臭いが気になるため、離れた場所に移動させたいケースもあります。
いずれにせよ、トイレの場所が悪く生活しづらいといった悩みを解消できるのならば、トイレの移動は十分検討の余地があるといえるでしょう。
給排水管の移動がリフォーム費用を引き上げる理由
さきほどトイレを移動させると、工事が大掛かりになるとお伝えしました。その大きな理由として、給排水管を移動させる工事が必要だからというのは、すでにお話したとおりです。
トイレの場所が変わらなければ、工事は便器の交換と内装の補修だけで済みます。しかしトイレは、給排水管に接続しなければ役割を果たしません。したがって移動となれば、当然移動先まで給排水管を延長する必要が出てきます。
また給排水管は、床下に隠蔽配管されているのが一般的です。床下点検口や基礎内を移動できる十分なスペースがあればよいのですが、多くの住宅では新築の際に、配管のリフォームを想定して工事をしていません。
そのため工事の際には、ほとんどのケースで床と壁を剥がすスケルトン工事が必要になります。つまりトイレの移動には、給排水管工事と同時に、大規模な木造内装工事が不可欠なのです。
ちなみに移動となれば、給排水管と内装工事だけでなく、電気工事や排気用ダクトの工事も発生します。さらにトイレならではの「配管工事のむずかしさ」もあり、移動によるコストは慎重に見積もらなくてはなりません。
トイレ排水管工事のむずかしさとは
トイレの排水は排泄物を含んでいるため、手洗いなどの「生活雑排水配管」と、あくまでも分けて配管する必要があります。洗面台と洗濯機・お風呂の排水は1本の配管にまとめてもOKなのですが、トイレだけは必ず別に配管しなければならないのです。
これがトイレの排水管工事をむずかしくする原因のひとつです。
なお排水管は、配管の勾配差により排水を外部に排出します。必要とされる勾配は各自治体により異なりますが、東京都の場合、口径65mm:1/50(50cm先で1cm下がる)以上、口径100mm:1/100以上というように、厳格に定められています。
移動が伴うリフォームの場合、この勾配が十分に確保できない可能性が出てくるので注意が必要です。
またスムーズに排水するためには、トイレと主排水管を繋ぐ距離が長すぎてもいけません。したがって勾配や配管距離によっては、希望する場所に移動できない可能性もあります。
最悪の場合、外部の配管から新たにやりなおす方法もないわけではありません。しかし基礎を壊したり、外部を掘削したりという工事が発生するため、できれば避けたほうがいいでしょう。
移動を伴うトイレリフォームの工事期間と費用について
一般的なトイレのリフォームは移動が伴わないため、便器の交換だけなら数時間、内装工事をおこなっても1日で終わるケースがほとんどです。
一方でトイレの場所を変える場合は、最低でも4〜5日はかかります。移動距離や工事の内容にもよりますが、給排水管工事・電気工事・排気用ダクト工事と、床張替えなど内装工事の日程が重ならないように調整が必要なため、場合によっては1週間程度必要なケースも。
また移動を伴うリフォームの場合、トイレ本体価格よりどうしても内装工事費のほうが高くなりがちです。さらに内装工事費だけでも20~40万円ほどかかるうえ、内装工事費は削れないので、リフォーム費用はどうしても割高になってしまいます。
便器の選び方にもよりますが、トイレの場所を移動させるリフォーム費用は、少なくともトータルで30~60万円程度はみておいたほうがよいでしょう。
トイレの移動がむずかしいのはどういうケース?
トイレの移動がむずかしいのは、まず前述のとおり、排水管の勾配が十分に確保できないケースです。
また比較的自由に間取りの変更ができる一戸建てと比べて、一般的にマンションでのトイレ移動はむずかしいケースが多いといわれています。
マンションでは配管スペースの高さに余裕がないので、勾配を確保しづらいのが最大の原因でしょう。マンションで配管された横走り主排水管は、床上を転がすか、床下(下階の天井裏)に設置されます。一戸建ての基礎なら十分な高さが確保できるとしても、天井裏、とくに床転がしの場合は、配管延長に伴う勾配の確保は非常に困難です。
さらにいえば、マンションの場合、上下階とも同じ間取りでつくられています。ところがトイレを移動すれば、上下階の居室部分にトイレがくる可能性も高く、最悪の場合はクレームを受ける可能性もゼロではありません。
またマンションでリフォームをおこなう場合、トイレに限らず、管理規約のチェックは非常に重要です。相談なく勝手にリフォームして、あとから規約外だとクレームを受けることのないよう、大規模なリフォームを検討する場合は事前に確認しておきましょう。
トイレを移動させないリフォーム案も検討してみましょう
ここまで説明してきたように、トイレの移動は簡単ではありません。費用も期間も通常のトイレリフォームよりかかりますし、移動したあとの生活に問題が出る可能性もあります。
もし「トイレが狭い・使いづらい」という理由で移動を検討していたのなら、状況によっては、トイレの場所移動をしなくても解決できるかもしれません。たとえばトイレの場所は変えずに、向きを変える方法が考えられます。もちろんトイレの壁も移動する必要はありますが、トイレ自体を移動するよりは大幅にコストを削減できるでしょう。
タンク付きトイレを、タンクレストイレに変えるだけでも空間は広くなります。メーカーにもよりますが、機種変更に必要な費用は高くても数万円です。移動させなくても解決できる方法がないか、一度立ち止まって考えてみてもいいかもしれませんね。
また歩行に問題がありトイレの移動を希望するケースでも、多くの場合は車椅子を使えるようにバリアフリー仕様にリフォームするほうが、かえって生活しやすくなるのではないでしょうか。もう少し軽度な場合は、手すりの設置も有効だと思います。
どうしても歩けない場合は、トイレの移動ではなく、ポートブルトイレの利用も検討すべきでしょう。このように介護が絡む場合は、ケアマネージャーなど専門家とよく相談するようにしてください。
トイレの移動は慎重に
さきほどトイレを移動しない考え方もご紹介しましたが、総合的に考えた結果、やはりトイレの移動を決断した人もいらっしゃるでしょう。その場合は「失敗した・元の場所に戻したい」などと、あとから後悔することのないように、しっかりと納得したうえで結論を出す必要があります。
そのためにもまずは専門家と一緒に、移動先でトイレが問題なく使えるか十分シミュレーションしてから、リフォームに踏み切りましょう。
またトイレの移動リフォームは、給排水管を増設して繋ぎなおす大掛かりな工事です。もちろん前述のように、勾配をきちんと守りながら配管しなければなりません。
したがってリフォーム会社を選ぶ際には、水回りリフォームの実績豊富な会社に依頼するようにしてください。もちろん、高額な費用がかさむリフォームになりますので、数社から相見積もりを取るのも重要なポイントです。
1社からの見積もりだけでは、リフォーム費用の相場がわかりません。最低でも2社以上から見積もりを取り、ぜひ自分と相性のいいリフォーム会社を選んでくださいね。
まとめ
ここまでお話したように、トイレの移動には非常に大きなコストが掛かります。とはいえ、トイレの移動で悩みが解決してとても暮らしやすくなるのであれば、お金も時間もかける価値は十分にあるのではないでしょうか。
いずれにせよ、トイレの移動は高額なリフォームになります。さまざまな状況を想定し、十分検討したうえで、家族全員が納得してからトイレの移動リフォームをおこなってくださいね。